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【研究成果】遮光による茶葉表皮細胞への影響〜お茶の品質向上へ期待〜

本研究成果のポイント

  • 高品質な茶葉を作るための遮光(被覆栽培※1)が茶葉に及ぼす影響を調べた。
  • 遮光によりトライコーム※2の数が減少し、表皮細胞(植物の一番外側の細胞)が薄くなることがわかった。
  • 3つのCsCPC遺伝子※3は、遮光によるトライコームの減少に関与している可能性がある。

概要

 高品質な茶葉を作るための遮光が茶葉へ及ぼす影響について、表皮細胞に着目した解析を試みました。解析の結果、遮光により茶の若葉のトライコーム数が減少し、表皮細胞が薄くなることを明らかにしました。またその際に、シロイヌナズナのトライコーム形成阻害遺伝子(CPC遺伝子)のホモログ※4であるCsCPC-1CsCPC1-2CsCPC3の3つの遺伝子の発現が、露光条件に比べて高くなることがわかりました。これらの遺伝子の働きが、遮光によるトライコーム数の減少に関与していると考えられます。
 一般的には、トライコーム数が多ければ高品質な緑茶として評価されます。しかし、詳しいことはわかっていません。今回の研究結果は、今後、トライコームと茶の品質との関係を明らかにするための重要な知見となります。
 本研究成果は、2024年3月1日(現地時間)、Scientia Horticulturae誌にオンライン掲載されました。
 

発表論文

掲載雑誌:Scientia Horticulturae
論文タイトル:Effect of shading on trichome formation and CAPRICE-like gene expression in tea (Camellia sinensis var. sinensis) leaves
著者:
若松 寿衣(広島大学大学院統合生命科学研究科 博士課程後期一年)
山本 実奈(広島大学大学院統合生命科学研究科 博士課程前期二年)
菊田 真由実(広島大学大学院統合生命科学研究科 助教)
田中 若奈(広島大学大学院統合生命科学研究科 准教授)
冨永 るみ(広島大学大学院統合生命科学研究科 教授、責任著者)

doi:10.1016/j.scienta.2024.113049
 

背景

 お茶※5の栽培には遮光処理(被覆栽培※1)が慣行されていますが、遮光作業は重労働であり、担い手不足に拍車をかける原因の1つになっています。しかし、今まで高品質な緑茶の生産のための遮光が、茶葉の表皮細胞にどのような影響を与えているのかはわかっていませんでした。
 私たちはこれまでに、CPC遺伝子のホモログCsCPCがお茶に6つあることを報告しています(Wakamatsu et al, 2021)。本研究では、その6つのCsCPCに着目し、遮光による影響について解析しました。
 

研究成果の内容

 約2週間の遮光処理により、若葉(第一葉)のトライコーム数が露光条件に比べて約30%減少することがわかりました(図1A, B)。また、茶葉の横断面を観察したところ、遮光により表皮細胞の厚さが約27%薄くなることが明らかになりました(図1C)。今のところ、トライコームが多いと、実際に高品質なのかは不明ですが、これらの効果が、緑茶の品質に影響しているのではないかと考えています。
 6つのCsCPCファミリー遺伝子の発現を解析したところ、遮光条件におけるCsCPC-1CsETC1-2およびCsETC3の3つの遺伝子発現が露光条件に比べて顕著に高いことがわかりました(図2)。これらの3つの遺伝子が、遮光条件での茶葉のトライコーム形成を抑制していると考えられます。

 

図.1 遮光による葉の表現型の変化 A. 露光および遮光条件で育てた茶葉。 B. 第一葉のトライコーム。 C. 第一葉の横断面。赤い部分が表皮細胞を示す。

図.2 露光及び遮光条件におけるCsETC1−2遺伝子の発現

今後の展開

 本研究では、遮光が表皮細胞に与える影響という点を中心に研究を行いましたが、トライコームがどのように形成されるか、トライコームが緑茶の苦味や旨味などの品質とどのような関係があるのかという点については未解明です。今後はトライコーム形成機構および品質との関係についても解明し、より美味しいお茶作りに貢献したいと考えています。

用語解説

(※1)被覆栽培
 高品質な茶葉を作るための遮光による栽培。この栽培方法によって、より香り高く、旨味の強い品質となるため、緑茶製品(煎茶、玉露、抹茶など)の製造に欠かせない工程である。

(※2)トライコーム
 表皮細胞から分化した毛状突起で、虫の食害やUVから植物体を守るために葉や茎に形成される。緑茶のトライコームは毛茸(もうじ)とも呼ばれ、多いほど高品質とされている。

(※3)CsCPC遺伝子
 Camellia sinensis CAPRICE gene の略称名。Camellia sinensis はお茶の学名で、CAPRICE(CPC)はシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)で発見されたトライコーム形成を制御する遺伝子(CPC遺伝子)。

(※4)ホモログ
 共通の祖先に由来する、類似した塩基配列を持つ遺伝子。ここでは、シロイヌナズナのCPC遺伝子と、お茶のCsCPC遺伝子が共通の祖先に由来することを意味する。相同遺伝子とも呼ばれる。

(※5)お茶
 本研究で使用した茶品種はさえみどりと呼ばれる早生(わせ)品種で、やぶきたより収穫時期が4〜7日早い。鹿児島県や宮崎県で主に栽培されている品種で、緑茶の色艶や旨味に優れていることが特徴。市販の緑茶および抹茶製品によく用いられる品種の一つである。
 

参考資料

Wakamatsu J, Wada T, Tanaka W, Fujii S, Fujikawa Y, Sambongi Y, Tominaga R. Identification of six CPC-like genes and their differential expression in leaves of tea plant, Camellia sinensis. J Plant Physiol. 2021, 263:153465. doi: 10.1016/j.jplph.2021.153465.

本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費23KJ1651および科研費22K05936の支援により実施されました。
 

【お問い合わせ先】

大学院統合生命科学研究科 冨永 るみ 
Tel:082-424-7966 FAX:082-424-7966
E-mail:rtomi*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)


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