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広島大学関東ネットワーク第12回『フェニックス医療講座』実施報告

広仁会(医学部医学科同窓会)関東甲信越支部会と広島大学関東ネットワークは2017年からフェニックス医療講座を定期開催しています。

病気や健康は誰もが気になる話題です。

この医療講座は、病気とは何か、病気とどう向き合ったらいいのかというテーマでの卓話を、広島大学医学部出身の医師にお願いする会です。
専門分野の最新の知識と現場のご経験をお話しいただくことで、より広く深い医療の知識と正しい問題意識を持てるようになる、そんな場になることを目指しています。

 1月26日16時より、広島大学東京オフィス(東京・田町)の408号室で、東葛病院(千葉県流山市)の下正宗先生(しも・まさむね 84年医学部卒)をお迎えして「医療における病理医の役割」との演題で講座を開催しました。

下正宗先生(84年医学部卒)

 下先生の専門である病理医は、あまりなじみのない言葉ですが、海外では「ドクターズドクター」と呼ばれている、最終的な病気の診断を下す専門家です。ガンなどが疑われるときに、内視鏡などで病変した部分を切り取って「検査に回しておきます」と患者に伝えるケースがありますが、裏側で、その切り取った部分(検体と呼びます)を顕微鏡などで精緻に検査しているのが病理医です。今回は、病理医の仕事の実際と役割について解説をしていただきました。

 日本においては病理医は意外なほど新しい存在です。近代化以降、日本の医学は「疾患の原因を追究する」ドイツ医学が主流となり、病理学は臨床ではなく基礎医学、つまり研究として位置づけられました。

 第二次世界大戦後、日本の医学はアメリカにシフトしていきます。そこでは病気の最終診断を下す病理医が活躍しており、臨床の現場にも病理医が登場し始めます。専門医の認定事業は1978年、病理医が診断を下すことが医療行為として認められるのが1989年、そして「病理診断科」と標榜できるようになったのは、2008年のことです。当初、基礎医学から臨床に進もうとした病理の医者は「学問を捨てるのか」と問い詰められたといいます。

 通常の医療では、問診、診察、レントゲンなどの画像診断、血液や尿などの臨床検査という段階で病気を絞り込んでいきます。それでも判断がつかない場合、病理医の出番になります。体の一部を切り取って組織を観察することで、ガンであるかどうかなど最終的な診断を下すのです。

 切り取られた検体は、固定(ホルマリンに12時間以上浸す)、脱水(アルコールに浸して水分を抜く)、脱アルコール、パラフィンで組織を固定、4ミクロン程度に薄切りするという段階を踏んで組織標本にします。検査結果が出るまで1週間ほどかかるのは、標本作りに時間がかかるからです。そこから各種の薬剤を使って染色を行い、顕微鏡で状態を観察するのです。「正常な細胞は非常にきれいに揃っているが、病変した細胞はふぞろいで汚い」のだと、下先生は実際の標本画像を見せて説明するのですが、これだけは素人にはなにがなんやらよく分かりません。形だけでなく染料で病変した部分に色を付けて診断を下します。

 東葛病院では、このように手間のかかる検査を1日に40例ほど手がけています。それだけでも作業量は膨大だと想像ができるのですが、病理医には内科や耳鼻咽喉科などの部位による専門はなく、すべての病気を扱うことになるので幅広い知識と最新の情報を知っておく必要があります。しかも、病理医の診断が最終的な診断結果となり、治療が始まるので責任は重大です。それでも判断に迷う症例も少なからずあり、亡くなった患者を解剖して死因を確認することもあります。これを病理解剖と呼びますが、「解剖してみて初めて、意識されなかった病気が見つかって驚くことがじつに多い」のだといいます。

 こうした裏方的な存在の病理医ですが、最近は急速に活躍の場が変わりつつあります。

 本来は主治医が患者に病状を説明をするのですが、納得のいかない患者には病理医が直接説明をするケースも増えています。また、術中迅速診断といって30分程度で診断を下すこともあります。手術の最中に検体を採取し病理医が診断をする行為です。この間、手術は執刀医は体をあけたまま結果を待っています。この結果で手術の範囲を決定することになります。より質の高い正確な手術にとって非常に大切な方法です。

 コンパニオン診断といって、事前にクスリの効き目を確かめてから投薬をする医療も広がりつつあります。抗がん剤などは、ガンの種類や体質によって効き目はまったく違うからです。こうした事前の検査も病理医の仕事です。

 安心して医療を受けるための基盤を支える病理医ですが、日本の専門医は3,000人、制度が整っているアメリカの10分の1しかいません。今後の医療政策の課題といえるでしょう。

 病理医の仕事を知れば、常駐の病理医が所属していて病理診断科を標榜しているかどうか、病院を選ぶ際に重要な判断基準となりそうだということが分かります。

次回は3月23日16時より、岡本浩二先生(1983年医学部医学科卒)にご来駕いただき、【医療、医療費、医療保険について】と題してご講話いただきます。
みなさま、ふるってご参加ください。

※開催済【医療、医療費、医療保険について】 第13回フェニックス医療講座
https://www.hiroshima-u.ac.jp/tokyo/news/49628

(広島大学関東ネットワーク 代表 千野信浩)

<お問い合わせ先>
広島大学東京オフィス
Tel 03-5440-9065  Fax 03-5440-9117
E-mail  liaison-office@office.hiroshima-u.ac.jp(@は半角に変換してください)


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