広島大学 生物生産学部 吉田 将之
E-mail:yosidam*hiroshima-u.ac.jp (注: *は半角@に置き換えてください)
魚の呼吸を測って不安に効果のある薬物を評価
本研究成果のポイント
- 自由に泳いでいるゼブラフィッシュの呼吸をモニターすることに成功した
- ゼブラフィッシュの行動テストに呼吸計測を組み合わせて、アルコールの不安軽減効果とカフェインの不安増強効果を評価した
- 行動指標と生理指標(呼吸)を組み合わせることにより、魚の情動状態に対する薬物効果の詳細な評価が可能となった
研究成果の内容
ゼブラフィッシュは、その体のつくりや遺伝子発現がヒトと共通しており、モデル脊椎動物として利用されています。特に、不安や恐怖といった情動*1と、これに影響する薬物の効果を調べる行動神経科学の分野で広く使われています。
ゼブラフィッシュの不安情動は、主に行動テストにより評価されてきました。不安の程度や薬物の効果をより詳しく評価するには、行動中の魚の生理状態を把握することが有効です。
呼吸は、情動状態がよく反映される生理指標ですが、泳ぎ回っている魚の呼吸を継続的にモニターするのは困難でした。吉田は水槽内で自由に泳ぐ魚から、魚に触らずに、行動に影響を与えることなく呼吸をモニターする方法を考案しました*2。
また、魚は初めての水槽に入れられると強い不安状態となります。適度な濃度のアルコール(エタノール)はこの不安を低下させます。一方、コーヒーなどに含まれるカフェインは、覚醒レベルを高めるとともに不安情動を強めます。これらの効果は行動にも現れますが、条件によっては両者の効果を行動のみで区別することは容易ではありません。
本研究では、従来の行動観察に加えて、同時に呼吸をモニターすることで、二つの薬物の効果を明確に区別することを可能にしました。
魚の脳のつくりや薬物に対する反応は基本的に私たちと共通です。この研究により、情動(喜怒哀楽や気分)に影響する様々な薬物の効果を詳細に評価することが可能になります。また、新規な薬効成分の探索にも貢献することが期待されます。
*1 感情の基本となる部分で、動物が生きていく上で不可欠な能力です。喜怒哀楽がこれに含まれます。基本的な情動は、脊椎動物を通じて共通です。
*2 Yoshida, M. (2022) Recording the ventilation activity of free-swimming zebrafish and its application to novel tank tests, Physiol. Behav. 244, 113665. https://doi.org/10.1016/j.physbeh.2021.113665.
論文情報
- 掲載誌: Physiology & Behavior
- 論文タイトル: Incorporating ventilatory activity into a novel tank test for evaluating drug effects on zebrafish
- 著者名: YOSHIDA, Masayuki
- DOI: https://doi.org/10.1016/j.physbeh.2022.113978