第21回田島誉久助教

バイオのつぶやき第21回 田島誉久助教「新たな触媒」
田島誉久助教
田島誉久助教

2017年3月27日

 桜のたよりが届く季節となりました。研究室でも卒業生が新天地での活躍を夢見て旅立ち、そして希望に満ちた卒論生が新たに加わります。新たな出会いの時期です。もちろん、環境が大きく変わりいろいろと戸惑いや不安があると思いますが、自信をもって望んで頂けたらと思います。

 私は低温微生物を利用した新しい触媒で“ものづくり”をしています。触媒とは化学反応をはやめるために利用される物質で無機では鉄や白金などがあります。一方、生体内の反応では酵素が触媒します。酵素はタンパク質ですので、温度など物理的な条件によって活性が良くなったり悪くなったりします。生物を利用した“ものづくり”でよく問題となるのは目的とする生産物量が少ないことです。これは微生物を利用したものづくりでは生体内にある様々な酵素を利用しますが、狙った反応以外も起こってしまい、原料が横取りされてしまうことが多々あるからです。これを改善するには必要な反応を触媒する酵素自体を取り出す(精製する)か、邪魔な酵素の遺伝子を破壊して酵素を作らなくする方法の二つがあります。しかし、どちらも手間がかかります。もっと簡単にシンプルに扱える触媒を作りたいということで、私たちの研究グループでは低温菌を器として用いたシンプル酵素触媒を構築しています。これは低温菌の中に、反応に必要な酵素を中温菌、植物、動物など常温で生育する生物から取得して発現させた菌をつくります。これを常温(40~50℃)で熱処理すると、低温菌の酵素は活性を失いますが、常温で生育する生物由来の酵素は活性を失うことなく働くことができます。ついでに、外界と細胞内部を隔てる微生物の膜構造も適度に壊れるため、原料が目的の変換酵素に出会いやすくすることができます。このようなコンセプトで構築したシンプル酵素触媒で“ものづくり”を行うことで、簡単な方法(シンプル)でありながら効率よく生産物を手に入れることができるようになってきました。また、新たな低温菌との出会いを求めて極寒の海からの探索も進めています(タイトル下の写真は船内での実験風景です)。

 学会や研究者の集まりでは色々と話が進むことがあります。私も学会での発表を聞いて頂いた企業の方に声をかけて頂き、共同研究をしましょうと話が進むことが時々あります。私の場合は、いま何を作ることが求められているかを知ることは意外と難しく、研究室の中ではわからないことが多いです。ですから、こんなモノを作ることできますか?など提案をいただけることはとてもありがたく思います。

 ところで、若手(学生)のみなさん、研究会での出会いを体験しませんか?今年の7月22~23日に生物工学若手研究者の集い2017夏のセミナーを広島で行います(詳細はこちらhttps://www.sbj.or.jp/division/young/)。合宿形式のセミナーですが、ポスター発表に加えて夜遅くまで語り合う交流会もあります。講師の先生や若手教員、企業研究者の方と気軽にいろんな話を聞いたり相談することができます。たまたま隣に居合わせた人と意外な接点(研究テーマが近い、出身地が一緒、共通の知り合いがいるなど・・・世間は意外と狭いことを感じます)で話が進むこともよくあります。研究や実験は一人で行うこともありますが、 複数人で取り組むことで多面的な見方ができ、課題解決しやすくなると思います。触媒には、「比喩的に、ある状態を変化させたり何かを生み出すための刺激となった人や物事などをいう」(日本国語大辞典)という意味もあります。是非、新たな出会い(触媒)を見つけましょう。

 

 


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